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北欧イノベーションエコシステムニュース

2021年、年初のコラムではまず2020年の北欧VC投資の動向を、ヨーロッパ全般、そしてCOVID以前の2019
年との比較から検討します。

まずはヨーロッパとの比較から始めましょう。コロナ禍にもかかわらず、2020年に欧州テックスタートアップ
は国内外のベンチャーキャピタルから410億米ドルという記録的な資金調達を果たし、2016年の160億ドル
から大きな飛躍の年となりました。これは5年間の年間成長率にして30%。しかしごく最近発表された欧州テ
ックシーンを総合的にデータ駆動型分析した Atomico report 2020を見る限り、欧州の「先進国と後進国」
ではかなりの格差があります。

一人当たりの累積投資額(2016-2020年)でリードするのは圧倒的に北欧諸国と英国/アイルランドです:スウ
ェーデン(1位910ドル)、フィンランド(4位609ドル)、エストニア(6位493ドル)、 デンマーク(9位278ドル)、ノル
ウェー (12位208ドル)。Atomicoが調査した欧州30カ国の一人当たり平均累計投資額は172ドルでした。
同様のーそしておそらく関連があるーパターンは国毎の一人当たりのスタートアップ数にも現れています。欧
州スタートアップの首都に輝いたのは、人口100万人につき865社を輩出したエストニア。ついで3位にデンマ
ーク (573社)、4位にフィンランド (525社)、 6位スウェーデン (429社)、11位ノルウェー (283社)です。欧州全
体の平均は100万人につき190社でした。

あらかたの投資パターンを見る限り、欧州のスタートアップエコシステムは急ピッチで成熟しています。2016
年から2020年のシードラウンドの中央値は70万ドルから120万ドルに、さらにシリーズAラウンドの中央値は
390万ドルから660万ドルに増加しています。Atomicoは、これを「主要シードファンドの資金調達額がますま
す増加し…(中略)主要米国VCがシードに参加して欧州に足場を固め…(中略)そして(欧州の)ファウンダ
ーは世界の舞台で勝負できる実力を備えつつある」と評しています。

さらにEUは2021年の欧州スタートアップへの直接株式投資に向けた2億1800万ドルのファンドを設立し、
欧州の資金調達環境を後押しする策を打ち立てています。これまでに審査を受けたスタートアップは177社
に上ります。

北欧内での比較については、我が同胞Nordic9が2017-2020年の北欧投資家(エストニアを除く)の傾向を分
析した画期的なレポートを発表したばかり。欧州で見られるようなエコシステム成熟度向上の傾向は、当然
のことながら北欧諸国にも強く見られます。

また北欧でもVC投資が盛んで、投資ラウンド数は1198から751に減少したものの、投資総額は2017年の28
億ドルから2020年には52億ドルとほぼ倍増しています。ファンド総額は右肩上がりで、個人VCが大型ラウン
ドを求める一方でシードレベルの投資は制度化が進んでいます。これは北欧のシリーズA投資ラウンド数の
増加の表れで(100万ドルから500万ドル)、2020年の全ラウンドのほぼ1/3を占めています。

Atomicoが指摘する北欧投資家エコシステムの特徴の一つに、年金基金の普及の高さがあります。実際、北
欧のVCは政府機関など他のLPタイプよりも年金基金からの資金調達の割合が高いのが事実です。

北欧の投資家はセクター固有のテーマにフォーカスを当て、またスタートアップをその基本部分(即ちマーケ
ティングや流通よりもチームや技術力)に基づいて評価する傾向が強まっている、とNordic9は述べています。
2020年に北欧投資家の人気を集めたビジネスに目をやると、トップはヘルステックとフィンテックでした。こ
の二つのセクターはまさにイノベーション・ラボ・アジアがセクター別レポート用に最初に選んだ領域(クリ
スマス前に発行した北欧ヘルステックレポート、2月中旬発行予定のフィンテックレポート)だったという意味
で、この結果は私たちにとっても快挙でした。

ヘルステックへの投資は2017年から2020年で3億4200万ドルから6億9500万ドルに、そしてフィンテックは3
億4000万ドルから10億2000万ドルに増加しています。急成長中の三つ目のセクターは投資額が1億2100万
ドルから4億2400万ドルに上昇している「マーケットプレース」です。こちらもレポート作成は必須でしょう!
総括して言えるのは北欧スタートアップエコシステムが加速度的に成熟しているということです。全般的に企
業はより統合化され、海外市場が重要視され、海外投資家の関心が高まっています。そして資金力が豊富で
高い専門性を持っているのが北欧の投資家なのです。

世界的レベルで見れば、少なくともシリコンバレーやボストン/ニューヨーク、ロンドン、テル・アビブと言った
誰もが知るエコシステムと比べると北欧は一部の投資家にとっては未だに蚊帳の外の存在かもしれませ
ん。けれどもこれは逆に日本の投資家にとっては有利かもしれません。なぜなら北欧スタートアップは派手
に宣伝されているエコシステムのスタートアップと比べて過少評価されがちなため“good deal”となるチャ
ンスがあるからです。

各領域における北欧の主要投資家情報に関心のある方は、是非お気軽にお問い合わせください。